「さあ、みんなで考えましょう」
そう言われても、なかなか考え始められないことがあります。
でも、目の前に一枚の絵が置かれたら。
色とりどりのカードが並んでいたら。
あるいは、いつもと違う「めがね」をかけてみたら。
誰かに言われなくても、つい見てしまう。考えてしまう。誰かに話したくなる。
私は、そんな仕掛けにずっと興味があります。
以前、幼児教育の仕事に携わっていた頃、こどもの気持ちがわかるめがねをかけてみるというコンセプトを考えたことがあります。
大人にとっては、ただの水たまり。
でも、子どものめがねをかけてみたら、そこには大海原が広がっているかもしれない。
大人には困ったいたずらに見えることも、子どもにとっては夢中になれる大冒険なのかもしれません。
同じものを見ているはずなのに、見えている世界は違う。
「子どもの気持ちを理解しましょう」と説明するよりも、子どものめがねをかけてみる。
そんな発想から生まれた、小さなコンセプトでした。
もう一つ、忘れられない仕事があります。
赤ちゃんを育て始めた時のおうちのかたに贈る歌です。
子育ての時間は、いつか振り返れば、かけがえのない幸せな時間だったと思う。
そんなことを言われても、子育ての真っただ中にいると、なかなかそうは思えません。
毎日が忙しくて、余裕もなくて、目の前のことで精いっぱい。
だからこそ、未来の自分が今を振り返るような気持ちを、先に歌にしてみたかった。
「いつかその時を思うと、今を大切にしたい」
そんな思いを歌詞に込めました。
すると、その歌が思いがけず多くの人の心に届きました。
10年以上たっても、自分の子どもの成長を振り返る動画に、この歌を重ねてくれる人がいます。
歌を聴くことで、過ぎていった時間を、もう一度違う気持ちで眺められる。
歌もまた、人の見方や感じ方を変える、一つの仕掛けになったのかもしれません。
その後、アートを使ったプログラムにも長く携わりました。
同じ作品を前にしているのに、人によって見えているものが違う。
誰かが「ここが気になる」と話すと、それまで気づかなかったところが、急に目に入ってくる。
作品は何も変わっていないのに、その場にいる人たちの見方が変わっていく。
そんな瞬間に、何度も出会いました。
学びの環境づくりを研究されている上田信行先生や、ラーニングデザイナーでBOX&NEEDLEの大西さんをはじめ、多くの方からも刺激を受けてきました。
何を教えるか、何を説明するかだけではなく、どんなものを置くか。どんな環境をつくるか。
人が思わず関わりたくなる仕掛けを考えること。
そのおもしろさを、ずっと追いかけてきたような気がします。
今、企業や組織のワークショップを考えるときも、同じことを考えています。
どうすれば、参加者が自分から話したくなるだろう。
どうすれば、いつもとは違う景色が見えてくるだろう。
絵を眺めたり、カードを並べたり、手を動かして何かをつくったり。
頭の中にあることを目の前に置いてみると、自分でも気づかなかったことが見えてくる。
同じものを一緒に眺めると、誰かの見方を借りることができる。
そして、何かをきっかけに、それまで見えていなかった景色が見えてくる。
説明されるよりも、思わず自分で考えたくなる。
そんな瞬間をつくれたら、うれしい。
そう思いながら、まだまだ、試してみたいことがたくさんあります。

